2010年7月27日火曜日

森毅先生のこと

2010年7月24日に森毅先生がお亡くなりになったとのこと、お悔やみ申し上げます。私は京都大学経済学部卒業なのですが、教養部の時に森先生のクラスを取りました。「京大時代は名物教授の一人として人気を博した」というのが一般的な解釈なのでしょうし、まったくその通りだったと思います。

教養部の1回生、もしかしたら2回生のときも(関西では1回生、2回生と数えていました)、数理解析研究所の教授だった一松信先生からも解析学、函数論を学びました。偏微分はまだなんとかこなしましたが、ベクトル解析はよくわかりませんでした。すみません。

対照的に、森先生から何を学んだのか、それほどの記憶がないんです。一松先生の授業にはまじめに出席していましたし、まじめに出席していても理解できないのに、欠席でもしたら大変だということでした。森先生が何を教えられていたのか、もしかしたら、どれほど真剣に出席していたのかすら、ほとんど記憶に残っていないのです。

しかし、森先生のクラスで学んだことで、今も鮮明に記憶に残っていることが一つだけあります。それは手の指(もしかしたら足の指も)を使って示す2進法です。それは、雑談だったような気がするのですが、まず両手を握って、右手の親指だけを立てる。これが1です。これに1を足すと、親指を引っ込め、人差し指を立てる。つまり、人差し指と親指は10の状態となる。10進法の2は、2進法では10です。これに1を足すと、人差し指も親指も立った状態になる。つまり、10進法の3は、2進法では11です。これに1を足すと、人差し指も親指も引っ込め、中指だけを立てる。つまり、10進法の4は、2進法では100です。10進法の5は、2進法では101で、中指と親指を立てた状態です。10進法の6は、2進法では110で、中指と人差し指を立てた状態です。10進法の7は、2進法では111で、中指と人差し指と親指を立てた状態です。10進法の8は、2進法では1000で、薬指だけを立てた状態です。2の乗数は指をどれか一本だけ立てた状態です。ですから、10進法の16は、2進法では10000で、小指だけを立てた状態です。10進法の31は、2進法では11111で、右手の指5本すべてを立てた状態です。10進法の32は、2進法では100000ですから、右手だけでは足りません。右手の指はすべて引っ込め、左手の小指だけを立てた状態です。

これを延々と続ける。「この整然とした美しさ、これは哲学だ!」と思いました。あまりに感激したので、これをその当時つきあっていた彼女(現在の妻)に喫茶店で、両手を使って実演してみたら、そんなバカなことを真剣な顔をしてやっている私を気味悪がったのか、単に私をあまりにもバカだと思ったのか、完全に怒らせてしまいました。きっと、彼女の家族や友人にはそうしたバカげことを真剣に、興奮して話す人なんていなかったのでしょう。

森先生には、風変わりな噂が流れたりしていました。たとえば「80点とか、85点とか、90点とか書き込んだ紙を階段の異なる段に置いておいて、階段の上からテストをパラパラ落としてみて、その落ちた場所に書いてある点数で、成績が決定する」といったまことしやかな噂が流れていました。実際に、クラスを取ってみて、成績はそうした形では決まっていませんでしたが、たしかに風変わりではあったのだと思います。

かなり以前で曖昧な記憶なんですが、もし記憶が確かなら、レポート提出が2回あって、2回とも提出したら82点、どちらか1回提出したら81点、何も提出しなかったら80点、つまりレポートは各1点だったような気がします。最低と最高の点差が2点なんです。「エリートは育てるもんやない、勝手に育つもんや」というのが教育に関する持論だったそうですが、森先生をテレビで拝見するたびに、森先生のクラスを思い出し、懐かしく感じていました。合掌。

2010年7月14日水曜日

サンフランシスコの夏

サンフランシスコの夏は寒いです。『トム•ソーヤーの冒険』を書いたマーク•トウェインが「人生の中で過ごした一番寒い冬は夏のサンフランシスコだった(The coldest winter I ever spent was a summer in San Francisco)」と語ったという言い伝えまであるくらいです。神戸大学で特別集中講義をして、国立国語研究所で招待講演をして、サンフランシスコに帰ってきてから1ヶ月になります。神戸と東京ではたくさんの刺激をもらいました。自分でコントロールしてゆかねばならない仕事なので、のんびりしていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。「新しい本を書きたい」という思いがわき上がってはいるのですが、「さて、どのような手段で」というところで立ち止まってしまいます。文筆業の人間って誰でもそうなのでしょうか。ここで思うのですが、「やはり出版社から声をかけていただく」か「こちらから企画を持ち込む」しかないのだろうな、と考えている今日この頃です。売れる本、つまりたくさんの人に読んでもらえる本をかきたいという思いが、本を出版するごとに強くなっていきます。ところで、twitterも書いていますので、見てください。